よく聞かれる質問に、僕は、音楽が良い映画が好きだと答えている。別にミュージカル映画が好きなのではない。
どちらかというと、映画の筋そっちのけで、唐突に踊ったり歌ったりするミュージカルは苦手なジャンルといっていい。
「ゴッド・ファーザー」、「ブルース・ブラザース」、「燃えよドラゴン」、「ロッキー」、「スター・ウォーズ」、「卒業」、「ロミオ+ジュリエット」、「レイ」などなど。
ジャンルはとにかく、映画に使われている音楽そのものがオリジナルであれ、既成の歌であれ、良い音楽が使われている映画が好きだ。洋画だけではない。日本映画でも、北島三郎の「兄弟仁義」。
高倉健の「唐獅子牡丹」。「砂の器」のオーケストラが奏でる荘厳な音楽。黒澤明を支えた早坂文雄の「七人の侍」。「旅の重さ」の吉田拓郎。拓郎が出たから陽水も、栗田ヒロミの「放課後」。最近では「リンダ・リンダ・リンダ」。ブルー・ハーツのオリジナルがヒットしたときは、過激さのあまり関心はなかったが、映画でペ・ドゥナが歌った「リンダ・リンダ」にはシビレタ。
そんな大好きな映画の中でもオススメが「ラウンド・ミッドナイト」。ただ、ただ、ひたすらにカッコイイ、心揺さぶられる映画。ニューヨークからパリにやって来たジャズ・プレイヤー“ディル”と、彼の吹くサクスフォンを“神の響き”と崇め、酒と薬でボロボロになった彼を庇護するフランス人青年の友情を描いている。
。他の出演者もハービー・ハンコック、ロン・カーター、ウェイン・ショーターなど、バリバリのジャズ・プレイヤーが「ラウンド・ミッドナイト」「ボディ・アンド・ソウル」などの名曲を演奏している。パリの地下にあるジャズ・クラブの場面など、もしも、そのクラブが近くに実在していたならば、毎日でも通いたくなるくらいだ。
そして、なんといっても主役のデクスター・ゴードンが素晴らしい。本物のジャズメンだからこそ表現できるその生き様が、主人公“ディル・ターナー”なのか、それともバド・パウエルなのか、デクスター・ゴードン本人そのものなのか。おのれの命を削って演奏してきたモダン・ジャズという生き方を、そのままに表現しているように思わせる。
映画初出演ということなど、どうでもいいくらいの絶妙な演技も、ビ・バップの即興のなせる技だったのだろうか。そして、心に染みるフランスの空の青さと、ジャズを育てたパリの人々の懐の広さ。もしもパリがなかったら、マイルスもモンクもパーカーも、たぶんジャズそのものが消えてなくなっていたかもしれないと思わせる映画。
ジャズに興味がない人も、ぜひ見て欲しい。タバコの煙と強い酒とジャズ。健康的ではないけれど、たまにはいいかな。